「日本語」×「外国語」×「専門知識」


ここで、少し順序を入れ替えて考えてみます。ここまで、翻訳には3本の柱があり、どれかひとつでも0点であれば翻訳はできないということをお話しました。このうち、「日本語」については、その重要さにあまり気がついていない人が多く、専門知識については不必要に脅えている人がいるということを申しました。

英語の翻訳を考えている人が多いと思いますので、これを英語と置き換えてみます。「英語がよくできないのですが、」と言う人はいても、「専門知識がないんですが、」と言う人と違って、「できるようになるのでしょうか」と不安を呈する人にはこれまでお目にかかったことはありません。つまり、英語は翻訳講座で教えてもらうものと思っているのです。ここに大きな誤解があります。翻訳講座というものは、英語を教えるところではありません。逆に、「医薬翻訳講座」などと銘打った講座であれば、専門知識を全面的に授けることはしないまでも、何らかの形でその手助けをするのが、本来の姿であるはずです。念のために断っておきますが、「英語を教えるところではない」ということは、必ずしも「英語は勝手に勉強しなさい」ということではありません。それどころか、英語を教えるところなんかよりはずっと英語ができるようにしてさしあげるつもりでおります。

ところが、時々「私はやはりまだ英語がよくわかっていないので、もう一度英語の勉強をしてから、やり直します」と言ってやめる人がいます。ところが、その人が翻訳をするのに必要な英語を教えてくれるところは、実はどこにもないのです。

「英語がわからない」と言う人のほとんどは、実は英語そのものはよくわかっているんです。でも、それだけでは翻訳するときにうまくいかず、本当は別のところに原因があるのに、自分の英語の理解力がないためだと考えます。こういう人は、翻訳者が英語の何を知らなければならないかが、よくわかっていないのです。

ここまで、翻訳には「日本語」、「英語」、「専門知識」という3本の柱があって、そのどれひとつとして疎かにできないにもかかわらず、どれひとつとして並しく認識されているものはないということをお話してきました。これではいくらやっても上達するはずがありません。

−「医薬翻訳ハンドブック」から抜粋

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